5月18日。心配されたお天気でしたが、昨日までの雨はすっかり上がり上々の演奏会日和となりました。昨年の9月に始まった石オケ第11シーズンでしたが、9ヶ月の日々はあっという間に過ぎてゆき、もう今日が定期演奏会の本番です。
※第11回定期演奏会本番ダイジェスト動画はこちら!
会場はいつもどおりの清瀬けやきホール。当日のスケジュールも、
朝9時集合→軽いリハ→写真撮影→解散して長~~い休憩→午後4時再集合→最後の悪あがき→本番
といった具合にほぼ固定化され、団員たちもだいぶ時間管理が上手くなりました。
「軽いリハ」が今回は一段と軽く終了してしまい「えっ、もう終わり?」
昨日の練習では「そんなに速くしませんから安心していてください」と言っていたはずのアンコール曲のバルトークでしたが
「石オケ史上、最高にスリリングなアンコールになりそうで楽しみですね~」
とうそぶくマエストロの言葉に、背筋が寒くなる一同です。
午後4時。長い休憩時間をそれぞれのペースで過ごしてきた団員たちが再集合してきました。と思ったら、さっそく開放された舞台上にほぼ全員がもう登壇して、必死に楽器にしがみついています。石オケ名物<最後の悪あがき>の時間です。この一時間で格段に上達する…はずもないのですが、本番前に少しでも安心材料を得ようとする人間の性(さが)でしょうか?
悪あがきにも飽きがきたところで、開演まで小休止。女性陣はたたみの部屋で足を延ばして歓談の時間となりました。話題はやっぱりバルトークのこと。途中でついていけなくなったら「手拍子でごまかすしかない」という話になり、客席を巻き込んでけやきホールをライブ会場に変身させるという計画で大いに盛り上がりました。
冗談はさておき、本番の時間です。
前回同様、曲順に筆者の感想を綴ってみます。
- モーツァルト『ディベルティメント』変ロ長調 K.137
弦楽合奏の基本中の基本のような楽曲で、石オケも強弱や曲調といった細かい部分にもだいぶ気を配れるようになってきたように思いました。名曲で耳当たりのよい曲なので、客席の評判はよかったのですが、演者としては、高速のテンポについていこうとするあまり、音符の長さや休符に対する意識が甘く、逆にどんどんテンポが上ってしまったのが気になりました。個人的にはもう少し余裕を持って宮廷音楽らしく優雅に弾きたかったと感じました。
2 ハイドン『チェロ協奏曲』ハ長調 Hob.Ⅶb:1
石オケはこれまでも数々のソリストの先生方と共演させていただいてきましたが、今回ほど何度もソリストと濃密な練習時間を共有できたことはありませんでした。大木先生には大感謝です。最初に楽譜を見た時「トン、トン、トントントン、トトトトトトトト」と、第一楽章から第三楽章まで延々と続く単調な音の連続に失礼ながら「見習い坊主の修行か」と感じた筆者でしたが、「大木先生の音をよく聴いて、先生が作る音楽を感じながら」というマエストロの指導の下に練習を重ねていくうちに、徐々にソロとシンクロできるようになってきました。そして最後の練習の時にマエストロがおっしゃった一言で本番への期待が大いに膨らみました。
「『大木翔太の間』というのがありまして、前の小節から次の小節の最初の音までの間にとことどころ微妙な間があくところがあります。それを感じながら楽しんで弾いてください。」
これまで何度も練習してきた私たちには、体感としてわかります。「間」といってもブツっと切れてしまう間ではありません。それはギリギリまで利かせたヴィブラートとお得意の顔芸で途切れることなく絶妙に埋められた「間」です。練習以上に先生の作る音楽に耳を傾けて、決して先生の音を追い越さないように気を付けながら、これまでで一番一体感のある演奏ができたのではないかと思います。筆者は「見習い坊主の修行」をすっかり卒業して、この曲が大好きになりました。団員も観客席の皆様も『大木翔太の間』堪能できたと信じます。
そう言えば、この一体感を生む要因となったものがもう一つありました。演奏前
のひとときのこと「大木先生のお母さまからお菓子の差し入れをいただきましたぁ。一つずつとってくださーい。」とのありがたい声がかかりました。単純な私たちは、我さきにとお菓子に群がり「お菓子をいただいてしまったからには、ハイドンだけは命かけて演奏しよう」と一層の団結を強めたのでした。大木先生のお母さま、強力なアシストをありがとうございました。
そして、大木先生ご自身からは思いがけないプレゼントがもう一つ。
めちゃくちゃ素敵な、バッハのガヴォットをアンコールとして聴かせていただきました。ハイドンのカデンツァだけでも十分に酔いしれたのですが、おかわりまでいただきました。会場の空気が一気に清められた瞬間でした。
3 C.ウィルソン『弦楽オーケストラのための組曲』
作曲者のウィルソンは、初めて聞く名前だったので、遅ればせながら調べてみました。19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したイギリスの作曲家で、主に演劇音楽の場で有名だったそうです。確かに、この組曲、何となく映画の挿入曲で使いたくなるような印象がありますね。石神井オーケストラとしては今回のメイン楽曲なので一番たくさん練習してきましたが、ちょっと弾きにくかったり合わせにくかったりする箇所があって、技術的なことに囚われすぎてしまった感がありました。今更ですが、1曲ごとに振り返ってみると、映画に例えれば、インディー・ジョーンズのような楽しい冒険ものあり、ディズニー的な可愛いアニメものあり、またロマンチックなせつない恋愛ものありといった感じで色々なイメージが沸いてきます。各自、お気に入りの映画やドラマのシーンを思い浮かべて、楽曲ごとにイメージを膨らませることができたら、もっとよい演奏になったかなと思います。
4 バルトーク『弦楽のためのディベルティメント』Sz.113 第三楽章
最後まで団員たちの悩みの種だったアンコール曲です。難解な音階や変拍子も悩みの種ですが、一番のキモは掛け合いの妙です。掛け合いを自信をもって弾きこなすには、もっと合わせ練習を重ねたかったところですが、なかなか時間がなく、出たとこ勝負になってしまいました。それでも筆者は、朝のリハーサルで舞台上で弾いてみたところ、セカンド・ソロの李先生の音が普段の練習よりずっとよく聴こえ、よくわからなかった入りの箇所が明確になり、最後まで落ちずに弾き切ることができました。当日になってできたできた、と喜んでいる場合でもないのですが、「史上最高にスリリングなアンコール」筆者個人としては楽しむことができました。
大木先生に主役を奪われて、今か今かと出番を待っていたコンマスの伊東先生は、冷静に演奏をリードしながら、見せ場のカデンツァは遊び心を発揮して観客を魅了しました。
それにしてもこのアンコール曲で演奏会を立派に締めることができたのは、ひとえに講師の先生方の素晴らしいソロとリードがあったからこそです。プロフェッショナルと一緒に演奏できることのありがたさを改めて感じた次第でした。
さて演奏会の後は、もちろん、近くの居酒屋で打ち上げです。
先生方が順番に各テーブルを回ってくださり、団員みんなと交流することができ、楽しい時間となりました。
会の冒頭に毛利先生から全体の講評をいただきました。
「みなさん、とても上達しました。特にハイドンは素晴らしかった」
とお褒めの言葉をいただき、いつも辛口の毛利先生がずいぶん丸くなったな、と思っていましたが、私たちのテーブルに回っていらした時に改めて演奏の感想を求めたところ
「モーツァルトのね、頭のソ、ファミの『ファミ』がよくない。ファをひかっけるのではなく、2拍目の頭にファが来るように『ファ、ミ』と弾かないといけない。あの時代の流行りの弾き方で云々」
と蘊蓄が始まったと思ったら
「ハイドンはね、音符の切り方がいい加減。音符の長さにはそれぞれ意味があるのだから、指示どおりに弾かないといけない云々」
毛利先生が丸くなったと思ったのは気のせいでした。毛利先生はやっぱり毛利先生のまんま、石オケのご意見番は健在でした。
今期は、新しい団員の皆さんが多数入団してくださいましたが、今日一番嬉しかったことは、複数の新入団の方の方から「また9月にお会いしましょう」と言っていただけたことです。今回ご一緒できた多くのみなさまと次のシーズンで再会できることを楽しみにしています。
最後になりましたが、ご指導いただいた西谷先生はじめ講師の先生方、とりわけ贅沢なほど何度も練習に付き合ってくださった共演の大木先生、賛助出演とステージマネージャーの二刀流でご支援くださった佐藤さん、多方面に奔走してくださった事務局の皆様、舞台づくりに汗をかいてくださった団員のみなさまにこの場を借りて感謝いたします。本当にありがとうございました。
by A.E<Vn>