11月6日。コロナウィルスの流行にようやく終息の兆しが見え、日常がだいぶ戻ってきました。練習会場であるふるさと文化館の閉館時間も通常の9時30分に戻り、おかげさまで石オケの練習時間も今日から元の長さに戻すことができました。
時間に若干、余裕ができたということで、今日は全体練習の前にパート別の時間が設けられました。今日の練習曲は、シューベルト『死と乙女』とドビュッシーの弦楽四重奏。今シーズンの難曲のダブルパンチ?です。各パートの担当講師とパートリーダーを中心に、ボウイングの確認を主に行うように、とマエストロからの指示です。
各パートそれぞれに、楽譜を寄せ合ったり、試し弾きを交えたりして取り組んでいましたが、どのパートもドビュッシーの確認作業に移ってから、だいぶ苦戦している様子です。特に、我がセカンドヴァイオリンチームは大苦戦中。ボウイングもさることながら、「この音で本当に合ってるの?」「ここは何ポジ?」と次々と疑問が生じてきて、かえって混迷の度合いが深まったままタイムアップを迎えてしまいました。
全体練習の時間が始まりました。最難関のドビュッシーから開始です。
「さあ、始めますよ!」とマエストロが勢い込んで振り始めたとたん
「えぇ、そんな速いの?!」「そんなの無理、無理!」
と、あちこちから不満の声が上がり、ほんの2、3小節進んだところで、団員たちによって勝手に演奏は止められてしまいました。
その様子を見た伊東先生が、突然
「くっ、くっ、苦情…」
と言いながら、必死で笑いを堪えています。
団員が指揮者に異議申し立てをする、というプロのオケではありえない(いや、アマのオケでも普通はありえない?)場面が、すっかり伊東先生のツボにはまってしまったようです。
「わかりましたよ。じゃあ、ゆっくりにしますよ。」
と、マエストロはちょっと拗ね気味でしたが、ゆっくりだったのは、やっぱり初めだけ、気付いてみたらすっかりマエストロのペースにはめられている団員たちでした。
弾けても弾けなくても、とにかく練習の初日から本番仕様で進めていくのが石オケ流です。マエストロが作りたい音楽を最初から意識づけられていきます。
16分音符で上行下行の旋律が連続するところで、団員たちが一音一音一生懸命弾いていると、マエストロから
「そんな、モーツアルトみたいにはっきり弾かないでください。寄せては返す波のように、もっともにゃもにゃ弾いてください。」
と注文が出ます。いやいや、そもそも弾けてないのに、「ちゃんと」もにゃもにゃ弾くのは相当に高等技術を要します。結局、ただのもにゃもにゃになってしまいましたが、意外にもマエストロからは
「なかなか、いいです。ドビュッシーらしくなってきました。」
ホントかな?
中間部の第二旋律が出てくる前の盛り上がりのところでは
「ここは、2小節ごとにどんどんテンポを上げていきます!」
との指示。
「えっ、うっそ~」ここはセカンドヴァイオリンだけ、指がもつれそうな三連符が続くところではないですか。そんな殺生な…
そのもっと先には、さらに難易度の高い♯6個の三連符もあって、もっと訳が分からない上に、マエストロのテンションはどんどん上がり、もはや練習会場はカオスの状態になってきた……
と思ったその時、何の手違いか、突然団員たちの背後にあったロールスクリーンがスルスルと降下を始めました。その瞬間、全員の顔が、サスペンスドラマのCM前のワンショットのごとく凍りついたのでした。
「もにゃもにゃ」が本物になって、カオスから脱出できるまでは、まだまだ道のりは遠いようです。
休憩の後は、今日で練習3回目となったシューベルトの『死と乙女』を合わせました。けっして難易度が低いとは言い難いこの曲ですが、さっきのカオスと比べれば、ずっと素直で弾きやすく感じました。今日の練習プログラムで、この2曲をこの順番で用意したことに、そこまでの狙いがあったかどうかはわかりませんが、思わぬドビュッシー効果で『死と乙女』のハードルが下がったことは確かなようです。
by A.E.<Vn>