2月3日。練習会場に到着し、楽器の準備をしていると
「やあ、元気?!」
とさわやかな声で呼びかけられました。声の主は伊東先生でした。先生の方からこんなに元気な声をかけられたのは初めてかもしれません。その後も、団員が入ってくるたびに、みんなに元気に声をかけまくる伊東先生です。
今日の伊東先生、いつもと雰囲気が違うなぁ…
と思っていたら、今度は一番前の席に陣取って、ブリッジの組曲をすごい迫力で弾き始めました。
「今日はバリバリやる気ですね。何かいいことあったのですか?」
と尋ねると
「うん、練習してきた!」
嬉しそうな顔で、ちょっぴり得意げな返事が返ってきました。プロなのにこういう素人みたいなことが臆面もなく言えてしまうところが、伊東先生らしくて思わず笑ってしまいましたが、プロでもアマチュアでも、練習の成果を発揮したいとはやる気持ちは一緒のようです。
相棒の伊東先生がノリノリなので、マエストロも今日は張り切っているようです。
「では、さっそく、ブルッフから始めます。今日は伊東先生も張り切っているし、私は決めました!ブルッフの冒頭部分は、世界最速の演奏を目指します!!」
テンションが上がれば上がるほど、曲の速度を速くしたくなるのがマエストロの(悪い)癖で、その度に団員からはため息が漏れますが、それでも、食らいついていくのが石オケ団員。“世界最速”の演奏が始まりました。
伊東先生は、この曲のとぼけた味が前々からお気に入りだったようなのですが、今日は一段とノリノリで顔芸まで飛び出しているようで、第三曲を振り始めたと思ったら急に笑いが止まらなくなったマエストロ。
「ちょっと、そんなバカにしたような顔して弾かないでください!」
はい、やり直しです。
先生方、マジメにやってください!
後半はフランク・ブリッジの組曲の時間です。ヴァイオリンはパートの入れ替えに伴って席替えがあります。プルト表にしたがってトップサイドの席に座ろうとした某団員にマエストロが声をかけています。
「申し訳ない。今日は伊東先生にここで弾かせてあげてください。せっかく練習してきたみたいなので。」
さすが、マエストロ。親友の伊東先生のトリセツをよく心得ています。
それに、先生にトップサイドで演奏していただくことは、後方で弾く筆者たちにとっても、隣のコンミスにとっても、よい勉強の機会になります。
後半に入っても、伊東先生はノリノリのままです。「練習」の成果を遺憾なく発揮してわれわれファーストヴァイオリンのみならず、全体の演奏を引っ張っていきます。神経も研ぎすまされているようで、マエストロのほんの少しの躊躇も見逃さずに指摘しています。
「そのとおり、あそこはちょっと迷ったんですよ。」とマエストロ。
それを聞いて
「こういうところは横目でチラ見しながら弾いて、今みたいな時こそ、コンサートマスターの出番で…」
と隣のコンミスに向かって、コンサートマスターの心得まで諄々と説き始める伊東先生でありました。
伊東先生効果か、団員たち自身の進歩によるものかどちらかはわかりませんが、マエストロも想像以上の仕上がり具合に気をよくしたようで、最後にエルガーのセレナーデも勢いで通すことになりました。こちらも、一同、ニック教授のマスタークラスの教えを忘れてはいなかったようで、「情緒豊かにかつ快活に」英国流の演奏ができていたように思います。
「すごい!今日は3曲通し切ることができました。」
マエストロも団員たちも大満足の本日の練習でした。これもひとえに絶好調だった伊東先生のおかげです。伊東先生、次回からも、今日のテンションでよろしくお願いします。
by A.E.<Vn>