3月25日。今日はパートごとに部屋を分けての分奏練習です。今日の分奏は、一人の講師が一つのパートを見る、というこれまでのスタイルから少し趣向を変えて、パート別に分かれた各部屋を、三人の講師が30分ずつ持ちまわる形で行われました。つまり、一日に三人の先生から教えていただける、という団員にとっては、とっても「美味しい」企画です。その中から、第2ヴァイオリンとヴィオラの合同チームの部屋の様子をレポートします。
最初の講師は、毛利先生。
チェロの毛利先生がヴァイオリンとヴィオラのレッスンをしている珍しい図です。
レッスンの曲目はオクテットの第二楽章。「美しい音楽」がモットーの毛利先生らしい選曲です。最初の2小節はヴィオラの二重奏ですが、のっけからレガートスタッカートの弾き方にこだわる毛利先生。なかなか、ヴァイオリンの出番が回ってきません。やっとヴァイオリンの出番か、と思ったとたん「いや、そのp(ピアノ)は違う」と即、ストップがかかります。通常、pの音を出すときは、指板に近いところを使いますが「それでは、ホール全体に届くpの音にならない」と先生はおっしゃいます。あえて駒の近くを使って、微妙な圧力と弓の使い方で出すpを目指そう、ということで、繰り返すこと十数回。やっているうちにボウイングの返しも気になりだして、また何度もやり直し…先生がチェロで弾いてくださる主旋律のあまりにも美しい音色に聴き惚れているうちに
「はい、毛利先生、時間です。」
あっという間に先生の持ち時間終了。終わってみたら、何と楽譜一段分しか進みませんでした!
毛利先生に続いては、お菓子をポリポリかじりながら、伊東先生がゆる~い感じで登場。
「じゃ、やろっか」
超ストイックだった毛利先生の時間とは、180度違う空気感に戸惑う団員一同です。
しかし、伊東先生、かっこうは少々チャラいですが、指揮台の前に立つと、プロの楽団員らしく、実践的で的確なアドヴァイスで、石オケの弱点を次々とあぶりだしていきます。曲目はドヴォルザークの第三楽章と第五楽章でした。普段の練習では、テンポが流れてしまいがちな箇所に絞って、ゆっくり正確なテンポで刻む練習は、とても勉強になります。また、ゆっくりさらうことで、楽譜に書かれたダイナミクスにも団員の注意を向けていきます。
「ダイナミクスは、自分が思っている以上に変化をつけなければ、観客には届かない。」
日々、観客に向けて演奏しているプロの言葉には説得力があります。指摘を受けて弾き直すと、必ず「うん、すごくよくなったよ、もう最高だよ!!」と過剰な褒め言葉でその気にさせるのが伊東先生流です。「最高は言い過ぎでしょ」と思いつつ、そう言われると素直な団員一同は、何だかうまくなったような気がしてうれしくなってしまうのです。
さて、最後は、真打ち・マエストロ西谷先生の登場です。いつに変わらずパワー100%全開で入室してきて
「さあ、やりますよ、モーツァルト!」
えっっ、モーツァルト!?それは、まったく予定外。モーツァルトは、4thシーズンの冒頭に数回やったきり、ずっとやっていなかった曲目で、一同、すっかり油断していました。しかも…
「それでは、第三楽章!Presto!!」
毛利先生と伊東先生のゆっくりレッスンにどっぷりつかっていた身に、いきなりのPrestoは堪えました。しかし、曲目ごと、楽章ごとに、パパッと頭と気持ちと指の動きを切り替えられることは、オケ団員にとって必須項目であります。気合を入れていきましょう!
西谷先生が強調されたこと。それは
「モーツァルトですよ。楽しいんですよ。だから、楽しく弾いてください!」
そう!演奏している方が楽しくなかったら、観客が楽しいはずがありません。単純にして、すばらしいアドヴァイスだと思いました。
それにしても、30分の間に、旋律の構造を解説したり、パッセージの部分練習を入れてみたりと、いろいろな要素をはさみながら、第一楽章から第三楽章まで全曲通してレッスンしてしまうなんて、西谷先生にしかできない超絶技巧ですね。
…といった具合に、三者三様のやり方で、今日の楽しい分奏練習の時間は、あっという間に過ぎていきました。先生方のやり方はそれぞれでしたが、3人の先生が伝えたかったことは、実は一つのことに集約されているように思いました。
それは
「聴かせる音楽」を目指そう
ということ。観客席に届く音楽、聴く人の心に響く音楽、それを目指してこそのオーケストラだと改めて教えられた気がした今日の練習会でした。
by A.E<Vn>