12月9日。とっぷりと陽の暮れた石神井池の水面に、クリスマスのイルミネーションが光を落としています。
光陰、矢の如し。早くも12月。石オケ5thシーズンも、4か月目に突入しました。
今日のマエストロ、いつも以上にテンションが高いです。
「さあ、みなさん!前回のブログ、読んでくれましたね!」
読者の皆様も、きっと読んでくださいましたね。マエストロがバルトークへの思いを語ったあのブログ (→ こちら)のことです。
「今日も、コンマスの伊東先生が来てくださってます。毛利先生も張り切ってます。では、バルトーク第三楽章、行きましょう!!」
という訳で、いざ練習開始です。
「最初はゆっくり」というので、安心していたら「ゆっくり」の定義が、筆者の理解とは違っていたようです。のっけから事前のパート練習の倍の速さで始まりました。メリーゴーランドかと思って乗ったら、ジェットコースターでした。
この楽章は、ソロの後を全員が追いかけるように弾いていく形式になっていて、しかも、各パートが同じパッセージを順番に追いかけていく部分もあったりと、演奏者にとっては「中抜け」の多い譜面なので、一時も楽譜から目が離せないのです。自分の出番に出損なわないように、必死に楽譜に食いつき、中ほどの笛を奏でるような伊東先生の美しいカデンツァの音色に耳を傾けている余裕もなく楽譜を先読みし、半音階がゴショゴショと連続する部分は雰囲気だけで適当にごまかし、それでも得意なところだけは元気に弾いて、第三楽章の初回演奏は終わりました。
「通りましたね!みなさん、すばらしい!!」
調子づいたマエストロ 「二回目は本番のテンポで!」
ああ、やっぱり来ましたか…
今日の練習では、どこが重点練習部分なのかがよくわかったことが最大の収穫でした。そしてこの楽章全体のテンポ感、そして自分の出番が来たときに、第一音から完璧に出せる準備の整え方といったものは、練習の繰り返しで身体に覚えさせるのが早道と感じた初回練習でした。
「はい、それでは、休憩の後は第二楽章やります。」
え~~っ、聞いてないよ。
事前の練習予定にないことをやるのが大好きなマエストロです。また、やられました…
休憩時間は、団員のヨーロッパ土産のクッキーをくわえながら、第二楽章のにわか練習にいそしむ姿が、あっちにもこっちにも見られました。
暗い、こわい、不気味、おばけ出そう、訳わからない…
と特に団員の評判が芳しくない第二楽章ですが、マエストロの第一声。
「ピラミッドの中に入っていく気分で…」
ピラミッド!?
後で、連想の訳を尋ねてみたところ
「中間部の低弦の完全5度の動きが、クレオパトラの登場みたいだから」
とのこと。団員の一部からは「クレオパトラとピラミッドでは、千年以上時代がずれてる」との厳しい指摘がありましたが、まあ、いいじゃないですか、雰囲気ですよ。雰囲気。
マエストロからの神の啓示を受けて、いざ、演奏を始めてみると、何だか、気分が変わってきました。懐中電灯片手にピラミッドの狭い空間に分け入っていく様を想像すると、だんだんインディージョーンズになったようなワクワク感が湧いてきて「暗い、こわい」といったネガティブ気分はどこかに飛んでいってしまいました。そして、ワクワク感をもって演奏していくと、随所に隠されている印象的な美しいメロディーもだんだん見えてきました。マエストロは相手をワクワクさせる言葉選びの天才ですね。
もちろん、ほとんど予習なしの初回演奏でしたので、前半の第三楽章以上にごまかした部分だらけの演奏ではありましたが、雰囲気はかなりつかめていて、思っていた以上にまとまった演奏になっていたように思います。
これで団員たちも、第二楽章の練習にも身が入りそうです。「今日は気分だけつかめればいいです」と言っていたマエストロのもくろみは、大成功を収めたようですね。
そして…
「さあ、それでは、せっかくですから第一楽章も通しましょう!」
気付いてみたら、バルトーク『ディヴェルティメント』全曲通しを実現してしまった今日の石オケでした。
「今日はバルトーク、本当にがんばりました。練習終了時間まであと5分ですが、最後は『ブランデンブルク』を元気に演奏して締めましょう!」
『ブランデンブルク』は、やっぱり今日も、バルトークのご褒美でした。
今日はなぜか地味なジャケットを羽織った伊東先生です。
後姿を見かけて、何か心境の変化があったのかしら、と思っていましたが、正面に回ってみたらこのとおり。ジャケットの下はいつものチャラTで、お菓子を食べながらポーズを決める茶目っ気も、いつものとおりでした。みなさま、ご安心を。
by A.E<Vn>