12月になりました。年内の練習会もあと2回を残すのみとなりました。
まもなく練習開始の時間ですが、おや、なぜか前の方の席が空いています。席の数は十分なはずですが、遠慮して後ろの方に座りたがる団員が目立ちます。壁際の席を死守している団員もいます。それというのも、マエストロから
「はい、それではドビュッシーやりますよ!」
という元気な掛け声がかかったからです。前々回のブログで紹介したとおり、この曲は団員の多くが苦戦している難曲です。写真のとおり、講師の先生方も、譜面とにらめっこしながら事前練習に余念がないほどですから。だから団員がなるべく目立たない席でお茶を濁そうという小ずるい心理、わかります。
そういえば、今日はいつも真っ先に席について練習を開始しているチェロのメンバーが一人もいない中で練習開始となりました。コントラバスの団員が低弦パートを担うことになるのですが、この曲は『弦楽四重奏』なので、本来バスのパートはありません。バス団員はチェロと同じ譜面で演奏します。それ自体どれほど大変なことか、バスの素人の筆者でも何となく理解できますが、後でチェロの譜面を見て、もっとびっくりしました。この曲、低弦も、高中弦とほとんど同じような三連符や16分音符の連続する音型で書かれているのですね。バスの皆さん、本当にお疲れ様です。
さて、そんな状況でドビュッシーが始まりました。が、やる気満々のマエストロといまいち浮かない顔の団員たちの温度差は顕著で、演奏がまとまりません。
そこで、マエストロは作戦変更。
「わかりました。モーツアルトやりましょう!はい、元気よ~く。」
みんなの得意な『ディヴェルティメント』でテンションをあげる作戦に出ました。
第一楽章を元気に弾き終えたところで、
「やあ、素晴らしい!それでは、この勢いでドビュッシーに…」
その途端、壁際から声がかかりました。
「え~、二楽章と三楽章は?」
はい、もちろん第三楽章まで完璧に通すことになりましたよ。
さあ、今度こそドビュッシーの時間です。前々回よりは曲想や曲の流れがわかってきてはいるのですが、随所に指がもつれそうなトリッキーな部分があったり、他のパートとの和声がよく理解できないところがあったりして、苦戦が続きます。さらに、さらに、
「作曲家の中で、一番好きなのがドビュッシー」
と公言しているマエストロは、最初からノリノリで思い切りテンポを揺らしてくるので、ついていくのがたいへんなのです。こちらは休みなく三連符を刻んでいるから数え間違いはないはずなのに、気付いてみたら1拍、2拍ずれていることが何度もありました。たまりかねた団員からは、思わず
「すみません、ここのところ、インテンポ(テンポどおり)でやってください。」
ドビュッシーになると、なぜか『苦情』が多発する石オケであります。
そんなこんなで、今日もドビュッシーは“カオス”から脱出できなかったようです。それでもマエストロからは
「今日、たくさんやったので、だいぶできてきたように思います。」
との励ましと慰めの多分に混じった講評がありました。
しかし、これまでも『オクテット』やバルトーク等々、難曲を数々制覇してきた石オケです。5か月後、「ドビュッシー、いい曲だね。」と笑顔で言い合っていることを信じて、がんばっていきましょう。
今シーズンが始まった頃は、緊急事態宣言中で閑散としていた夜の石神井の街にも、だいぶ賑わいが戻ってきました。そんな空気に誘われた一部の団員たちは、さっそく少人数で「帰りの一杯」を再開したようです。こんな石オケの「日常」も以前のように当たり前のものになるとよいですね。
by A.E.<Vn>