3月18日。ここ最近暖かい日々が続き、例年より春の訪れが早そうだなと安心していたら、今日に限って季節が逆戻りしたような冷たい雨の一日となりました。咲き初めたばかりの石神井池畔のサクラの花たちも寒そうにしています。
年明けからの時間の進み方はいつも早く感じますが、今年も気付いてみたらもう3月半ば、本番まであと1ヶ月半を残すのみとなりました。今日からは、通し練習を基本とした総括的な練習に入ります。
プログラム順に、ドボルザークの『アメリカ』から練習開始。この曲の冒頭は裏拍からの変則的な入りで、指揮者と演奏者の呼吸合わせがちょっと難しいのです。
「ではっ」
と構えに入って、演奏スタート。ファーストヴァイオリン、セカンドヴァイオリン、チェロ、と入ってきて順調に始まったように見えましたが、
「ちょっと、待った。ストップ、ストップ。」
とマエストロが突然演奏を止めました。何事かと思ったら、マエストロとコンマスの呼吸が合わないまま、演奏が始まってしまったようです。
「パート内はピッタリ合ってるのですが、指揮と合っていなく、わたしが裏切られました!笑 やり直しです!」
“裏切り”とは、人聞きが悪いですが、最初の呼吸が合わなければ演奏が始まりませんのでここは大切な部分です。
気を取り直してTAKE2。今度はばっちり決まりました。前回の集中練習の効果か、とてもいい感じで演奏が進んでいきました。前半部分の中ほどにさしかかったあたりでふと気が付くと、なんと!マエストロが指揮台から消えているではありませんか!!
えっ、ウソ!
そのことに気付いてからの団員は、もう必死でした。途中、テンポを緩めたり、音をためたりする箇所では、トップ奏者の動きをうかがい、耳をそばだて、必死の思いで演奏についていきました。マエストロは、と見ると、あちこち動き回って楽しそうに写真撮影なんかしています。
そう、裏切られたのは私たち団員の方だったのです。
でも、この“裏切り”には、マエストロの明確なねらいがありました。それは、前回の練習から強調されてきた「他のパートの音を聴く」ことです。団員たちは、マエストロの思惑どおりに必死になって他のパートの音を聴き、お互いの呼吸を合わせながら、指揮なしで最後まで弾き切ることができました。そして演奏後には、自分たちの音楽をみんなで作り上げたという確かな感覚が残りました。
「みなさん、素晴らしい!」
裏切者のマエストロから、団員一同、手放しの称賛をいただけたのでした。
「本番も指揮なしでいけるかなぁ…次のソロの準備もあるし」
マエストロは演奏中の手塚先生にコソっとつぶやいたようなのですが、
「ダメです。本番はちゃんと振ってください。」
とキッパリ言われたとのことです。本番では指揮者が突然いなくなるような事態は起こりませんので、みなさん、安心してください。でも、耳を研ぎ澄ました今日の感覚は忘れないようにしたいものですね。
後半はチャイコフスキーの弦楽セレナーデを全楽章通しました。これまでの練習では課題も多かったのですが、弾いている筆者自身もびっくりするくらい自信にあふれた堂々とした演奏で、ノンストップで全曲通すことができました。本番が近づくと急速にレベルを上げてくるのが石オケの伝統ですが、今シーズンも着実に伝統は受け継がれているようです。この日、怪しかったところとして指摘があったのは全楽章を通じて2箇所のみでした。その部分を再確認して弦セレは終了。
最後に『トリプティーク』をやりましたが、こちらも前回からは見違えるほど力強い演奏に仕上がり、マエストロも満足そうでした。
次回はもう4月。練習会も残り数回を数えるのみとなりました。今日の成果を自信に変えて、さらに上を目指してがんばりましょう。
by A.E.<Vn>