4月22日。夏日だった昨日とうってかわって、今日は季節が逆戻りしたかのような肌寒い夜になりました。三寒四温の春ですが、石オケの練習日に限って寒い日がめぐってきているような気がします。
さて、第9シーズンも本番まであと2週間。練習会も今日を入れてあと3回を残すのみとなりました。練習会場を見回してみると、おや、今日はヴァイオリンの先生方の姿が見えません。どうやら伊東先生、安藤先生、李先生、サポートメンバーの加賀さんまで、みんなお休みのようです。
「え~、先生たち、いないの。」
ヴァイオリンパートの面々から焦りの声があがったところで、マエストロの第一声です。
「今日は、ヴァイオリンの先生たちがいません。せっかくの機会なので、手塚先生と毛利先生にも演奏はお休みいただいて、講評してもらいましょう。」
「え~~ッ」
今度は全員から焦りの声があがりました。
「大丈夫です。では、石オケ<本来>の音を聴かせてもらいましょう!」
という訳で、石オケ<本来>の音による『アメリカ』の演奏が始まりました。無難にフィニッシュしましたが、何となくしっくりきません。各パートを支えてくださる先生方がいないことで、団員一同、拠り所を見失っている感じでちょっと自信なさげな演奏になってしまいました。先生方とともに講評役に回っていたチェロのサポートメンバーの小原さんにも
「みなさん、よく練習されていると思いますがぁ、もっと他のパートを聴くといいと思います。」
と鋭いご指摘をいただいてしまいました。はい、おっしゃるとおりでございます。いつもいかにプロの先生方に支えられているか、身に沁みました。
次の弦セレは、さすがにコンマス不在ではよい演奏ができないだろうということで、西谷先生がコンマス席に座り、手塚先生がタクトを振ることになりました。
前方には、ただ一人の講評役となった毛利先生がじっくりと演奏に耳を傾けています。端正な容姿と独特の高雅な雰囲気から、石オケのメンバーの間で
「歩くローマ彫刻」
と呼ばれて人気のある毛利先生です。品よく足を組み、少し顔を横に傾けながら演奏を聴く姿が目に入ったら、何だか先生の周りだけヨーロッパの美術館のような空気が流れていて、思わず見とれてしまいました。
毛利先生の指摘は、外見のイメージどおりの鋭く独特ニュアンスに満ちたものです。とりわけ、音楽性に対する要求には厳しいものがあります。
第一楽章の序奏に続く第一主題について、フレーズの真ん中の付点四分音符が短かすぎる、との指摘がありました。ここはきちんと3拍分延ばさないと
「音楽にならない」
そう言われてしまっては、神経を研ぎ澄まして弾き直すしかありません。
強弱の対比のつけ方も微妙なニュアンスで表現されました。第一楽章に何度も出てくる十六分音符のフレーズの強弱については、「コントラストをつけて」と視覚的な明暗で対比を表現されました。それに対して第四楽章の強弱については、「遠近法を意識して、p(ピアノ)は遠くから聞こえてくるように」と別の表現を使われました。とても微妙な違いですが、演奏者の心にはストンと落ちる表現の違いでした。
でも、毛利先生は厳しいばかりでなく、時々、ちょっととぼけた優しさを見せることもあります。西谷先生がある箇所のチェロのリズム感について指摘したところ、毛利先生は
「ここはね、難しいんだよ。だんだんポジションが上っていくので、指揮が見れないからカンで弾くしかないんでね。」
と急にチェロ側に立って弁護してくれました。
今日の毛利先生の言葉で、とても心に響いたものがありました。先述した第一楽章の強弱について講評した時のことです。
「もっとできるはず」
先生は、そう言って団員たちを励ましてくださいました。
そう、私たちはもっとできるはず!
この先生の言葉を糧に、あと2週間、がんばってまいりましょう。
by A.E.<Vn>