暖かな日差しを浴びて、花々や木々の若葉が目に眩しい季節となりましたが、世の中は先の見えないどんよりとした空気に包まれ、心晴れない2020年の春です。
石オケも、多分に漏れずコロナの嵐の影響を被り、2月8日の練習を最後に、もう2か月も活動休止に追い込まれています。再開を祈っていた3月末からの練習も、会場であるふるさと文化館自体の休館により、さらに活動休止期間の延長を余儀なくされました。
練習休止期間の再延長が決まった日、
このままだと、弾けなくなっちゃう〜
と焦っていた団員たちに、Facebookとメールを通じて、マエストロから思いがけないプレゼントが届きました。
『石神井Int’lオーケストラ団員のためのスペシャル練習動画』
オケの臨場感を失わないように、と練習会と同じテンションで、マエストロが芥川、エルガー、ブリテンの3曲全楽章を、音のないカメラを前に、たった一人で振り続けた動画です。いわば『バーチャル練習会』の開催という訳です。
「かなりシュールな動画ですが、笑ってはいけません」
というコメントに興味をそそられて、どれどれと視聴してみたところ、失礼ながら最初の30秒でもう笑ってしまった筆者でした。
いやいや、しかし、先生はけっしてお笑いのために作ったのではありません。団員たちの練習不足を、外出自粛のこの機会を利用して何とか解消してもらおう、という深い気持ちがこの動画には込められているのです。そんなマエストロの思いに応えようと、さっそく楽器を取り出して動画に合わせて弾いてみました。
ところが、う〜ん、なかなか上手くいきません。原因は3つほどありそうです。
原因その1 テンポが速すぎて弾けない
マエストロは高速演奏がお好きなことは周知のとおりですが、音がないと高速ぶりに拍車がかかるようです。ブリテンの第一楽章などは、これまでに弾いたことがないほどのハイテンポで、グダグダになってしまいました。
原因その2 笑ってしまって弾けない
動画の画面は、常にマエストロのアップです。普段の練習よりはるかに近い距離でマエストロが得意の顔芸を連発するので、笑いを堪えるのがたいへんです。興が乗ってくると、カメラに向かってガァッ〜と大迫力で迫ってきたりするので、もう可笑しくて弾けなくなります。
原因その3 鼻歌のせいで弾けない
マエストロは、メロディーを鼻歌で口ずさみながら振っているのですが、音源のない中で振っているので、キーや音程がやや微妙です。さらに興が乗ると、鼻歌がいつの間にかオペラ歌手ばりの“朗唱”になっていて、かえって惑わされてしまう筆者でした。
そんな訳で、いきなり動画に合わせて演奏するのは、ちょっと無理だったようです。では、何かよい活用法はないか、と考えて
そうだ、エアーにはエアーだ!
と思いつき、楽譜を前にエアーで演奏することにしました。すると、これが思った以上に勉強になることがわかりました。
マエストロは、普段の練習会とほとんど同じテンションで撮影に臨んでいます。「ターラリーラ〜♪」と口ずさみながら、「はい、チェロお願いしま〜す」とか「セカンド行きますよ〜」とか合いの手が入ります。時には
「そ〜です!」
なんていう合いの手も入っているところを見ると、マエストロの耳には、どうやら私たちの演奏が聴こえているようです。
それとともにマエストロは
「はい、ここはこっち見る〜」 とか
「ここ、ちょっと間が入ります」
といった具合に、対面の練習会の時以上に明解な指示を出してくださっているので、マエストロの目指している音楽がとてもよく理解できるようになりました。しかも動画なら何度も聴き返すことができるので、楽譜の書き込みも余裕でできます。筆者もさっそく「めっちゃ、ビブラート」と書き込みました。
さらに、こうしてマエストロの指示を真剣に聞きながら何度も画面を見ているうちに、どアップの顔芸もだんだんと気にならなくなってきました。たっぷりと予習を積み、動画の‘シュール度合’にも慣れてきたところで、さあもう一度、楽器を取り出してバーチャル練習会に参加してみよう、と思い直した筆者です。団員の皆様も、いきなり楽器を取り出す前に、ぜひ、エアー練習で予習してから始めてみてください。
この動画が配信されたのは、活動休止期間延長の連絡メールが届いたその日の夜のことでした。練習中止延長に下を向くことなく、わずか数時間の間に、動画配信を構想し、3曲全楽章ほとんど休憩なしに大熱演で振り続け、編集・配信まで行ったマエストロの情熱と行動力には、頭が下がる思いです。マエストロの定期演奏会に賭ける並々ならぬ意気込みと同時に、石オケと石オケ団員に対する深い愛情を感じて、思わず泣けてきました。
マエストロ・西谷国登先生、本当にありがとうございます。
いまだ終息の兆しの見えないコロナの嵐のために、4月に予定していた姉妹オケ・クニトInt’lユースオーケストラの定期演奏会も中止となりました。そして5月のGWに石オケ講師の先生方をはじめ多くの共演者を交えて賑やかに開催予定だった西谷先生のヴァイオリンリサイタルも中止が決定してしまいました。この先の状況次第では、6月20日が開催日の石オケ定期演奏会も、無事に開催できる確証はありません。しかし、私たちにできることは、開催を信じてその日のためにしっかり準備することだけです。動画に込められたマエストロの気持ちに応える意味でも、下を向かず、手を抜かず、外出自粛の今こそ、楽器を手に取りましょう。
団員の皆様との再会を心待ちにしています!!
by A.E<Vn>