9月14日。先週に続いて、今日も石オケの練習会です。シーズン初頭からなかなかハードな日程です。
サブタイトルからもお分かりのとおり、この日の練習も、また新曲の譜読みです。
今日は芥川也寸志『弦楽のための三楽章』(通称『トリプティク』)の全楽章を譜読みします。
第7シーズンの石オケは、初めて日本人作曲家による楽曲をセットリストに加えます。毎回、何かと初物尽くしが大好きな石オケですが、今回も多分に漏れず初物に挑戦します。
「私は、この曲を中学生の時に初めて聴いて、大きな衝撃を受けました。いつかきっと演奏してみたいと思い、石オケを立ち上げて時からずっとこの時を待っていました!」
マエストロ・西谷国登氏の力強い第一声で、今日の練習は始まりました。
この曲のコンサートマスターを務めるのは、講師の伊東先生です。
練習開始前から、団員たちの気持ちを鼓舞するかのように、力強い音を奏でています。
この曲は題名どおり、それぞれ特徴的な3つの楽章からできています。
第一楽章は、戦国武士の行軍を思わせるようなリズムが最初から最後まで刻まれる勇壮な感じの曲で、筆者の第一印象は、NHK大河ドラマのテーマ曲です。団員のみなさま、ここはひとつN響の団員になったつもりで堂々と演奏しましょう!
第二楽章は、子守歌。いかにも日本人の子守歌らしく「ねんねんころり、ねんころり」と、抒情的でちょっともの哀しい子守歌です。途中で「トン、ト、ト、トン」と機織りのような音が入ったりしていて、働き者の農民の子守歌のようですね。
第三楽章は、太鼓の音が「ドン、ドン、ドドン!」と鳴り響くお祭りのイメージ。お祭りといっても、祇園祭のような静的でゆったりしたお祭りではなく、だんじり祭りのような動的でエネルギッシュなお祭りのようで、とてもトリッキーな拍子の連続で息が抜けませんが、うまくいったら拍手喝采間違いなしです。
…といった具合に、イメージは沸きやすいこの曲なのですが、弾くのは簡単ではありません。
調号はついてはいるものの、曲調的にはどの楽章も無調。臨時記号の連続で、しかも拍子が猫の目のように変わっていくので、全員、楽譜とにらめっこ状態。マエストロの指揮を見ている余裕はありません。同じく臨時記号と変拍子の連続だったバルトークの『ディヴェルティメント』に苦戦した日々を思い出す筆者でありました。
しかし、そこはさすがに日本人。(「インターナショナル」を標榜する石オケですが団員のほとんどは日本人です)何度か繰り返すうちに、雰囲気だけはつかめてきました。バルトークの1回目とは比較にならないほどサマになっています。身体の中を流れる民族の血の力というものは、確かにあるようです。
音楽が形になってくると、先生たちのアドバイスも冴えてきました。
お囃子のリズムを刻むとつい力が入ってしまいますが、
「ここは伴奏なのでもっとフラットな感じで、でもリズム感はそのまま保って」と手塚先生が実演されると、マエストロが
「祭りばやしが遠くで鳴ってる感じで」
と絶妙のアシスト。かつて日本の子どもだった団員たちにとっては、実体験としてしっくりくる一言だったように思います。
第一楽章の最後、「タッタタ、タタタタ、タタタタ、タタタタタタ」とたたみかけるフレーズの弾き方について、伊東先生からは
「最初から勢いをつけすぎずに、ためておいて最後の6連符で一気にいくイメージ。6連符の前で一瞬間をおいて、みんなで気持ちを合わせるだけで、その感じが出るから。」
と、プロオケ団員らしいアドバイスをいただきました。
この曲には、「和」のテーストや変拍子といった要素のほかにも、楽器のボディーを直接手で叩く奏法とか、「コル・レーニョ」といって弓を半回転させて棹の方で弦を叩く奏法など、かなり変わった技も随所に出てきて、観客の皆様にも楽しんでいただけるのではないかと思います。もちろん弾いている団員たちにとっても、新しい発見に満ちたワクワクする一曲になりそうな予感です。最初は取っつきにくいこの曲ですが、10か月後の完成形を夢みながら、地道に練習を重ねていきましょう。
by A.E.<Vn>