イギリス音楽大学ニック・ペンドルベリー教授(学部長)のマスタークラス~12月9日の練習会~

12月9日。今日は団員全員、緊張の面持ちでやってきます。この日、前回の練習会でマエストロから予告があり「トリニティ・ラバン・コンセルヴァトワール大学」という英国の歴史ある音楽学校のニック・ペンドルベリー教授によるマスタークラスが行われることになりました。学校の名前からして厳めしそうですし、何といってもレッスンは「英語」。突然、降って湧いてきた特別レッスンに、団員は戦々恐々としています。

このお話、西谷マエストロのホームページを見たニック教授の方からコンタクトしてきて実現できたとのこと。さすが国際派のマエストロですね。偶然とはいえ、エルガーとブリッジという英国の作曲家の曲目を選んでいたマエストロは

「我ながら、先見の明があった。」

とちょっぴり自慢げです。

ニック教授は、身長190センチはありそうなスラっとした方で、ふさふさとした上品な銀髪をたたえ、まさに「英国紳士」という言葉がぴったりの先生です。

あまり口を開けずに流れるように語る英語は、まさに正調イングリッシュといった感じです。

本日の教材はエルガーの『セレナーデ』です。いきなり速度標語のAlleglo piacevoleの意味がわかる人?と英語で問われてドギマギする団員一同でした。

piacevoleこそが英国の音楽の真骨頂だ、みたいなことを語っていたような気がするのですが(単なる筆者の勘違いで違っているかもしれません)、後でその意味を調べてみたら「楽しそうに、快適に」という意味でした。この曲は短調ですが、あまり深刻ぶってロマンティックに演奏するのではなく、軽快にサラッと演奏するのが英国流のようです。

とりあえず、第一楽章を流してみましょう、ということで演奏が開始しました。団員たちは、普段の練習の数倍、真剣な表情です。本番を振る巨匠が初登壇したゲネプロみたいな気合で弾いています。

レッスンは、気になるところがある都度、細かく指摘するというスタイルで進みました。石オケはインターナショナルの名にふさわしく、語学が堪能な団員も何人かはいますが、筆者含めその他多数の団員は、演奏以前にニック先生の英語に付いていくだけでもたいへんな集中力を要します。ニック先生の方でも、メロディーを口ずさんだり、身振り手振りを使ったりと様々に伝える努力をしてくださったおかげで、大筋は理解することができました。「音楽は国境を越える」というのはまさに真実と実感しました。

ニック先生は、短時間でとても多くのことを教えてくださいましたが、パート間の連携の大切さが特に心に残りました。第一楽章の展開部で、セカンドヴァイオリンがスウィングで伴奏を奏でるところがあるのですが、リズミカルなスウィングを完成させるためには、後打ちするヴィオラも、頭の音を鳴らすだけのチェロも、そしてメロディーを乗せるファーストヴァイオリンも同じスウィング感を感じることが大切なことを教わりました。

最初のうちは、私たちに合わせて易しい言葉で語っていたニック先生でしたが、興に乗ってくるにつれ、早口で言葉数も多くなってきて、だんだん英語についていけなくなってきました。そこで後半は我らがマエストロに通訳をお願いしたのですが…

「え~と、×××××ってことみたいです。」

「△△△△△っていう感じかな?」

といった具合で、ニック先生の言葉が本当に正確に伝わっているのか疑問な通訳ぶりです。アメリカ英語育ちのマエストロは、もしかしてブリティッシュイングリッシュが不得意なのでしょうか?

第二楽章のレッスンが始まったところで、フォルテピアノ(フォルテから急にピアノにする)やディミヌエンドの指示をきちんと守るようにという内容のことをニック先生が話された(らしい)のですが、これに対するマエストロの通訳は

「この曲はピアノやディミヌエンドを無視したら音楽にならんでしょう。」

ジェントルマンのニック先生が本当にそんなニュアンスで言ったのでしょうか?マエストロは、通訳にかこつけて自分が言いたいことを言ってるだけなのでは、という気がしてきませんでしたか、みなさん。

ドキドキで始まった今日のマスタークラスも、たくさんの実りを得て、あっという間にお開きとなりました。時間の関係で第二楽章の後半と第三楽章は駆け足になってしまたのが残念でした。来週、続きのレッスンがあったらいいのに、とみんな思ったのではないでしょうか。レッスンの後は、集合写真を撮ったり、楽譜や楽器ケースなど思い思いの場所にニック先生のサインをいただいたりして交流の時間を持ちました。

マエストロからは

「いやあ、何か、イギリスの秋っぽくなってきましたよ。」

と、よく訳のわからない講評をいただきましたが、誉め言葉と思って自信をもってやっていきましょう。

ニック先生、今日は充実した楽しい時間をありがとうございました。今日の成果を、来年の本番に活かします。

また、いつかどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

 by A.E.<Vn>