5月8日。とうとう3年ぶりとなる石オケの定期演奏会の日がやってまいりました。風薫る5月というのに何故かここのところ天候不順な今年の春ですが、今日はお天気の心配もなく、演奏会日和となりました。
ここ、清瀬けやきホールでの定期演奏会は、4年ぶり4回目の開催です。毎回聴きにきてくださる地元の方々もいらっしゃいます。久しぶりですが、忘れないで今回も来ていただけると嬉しいですね。
団員集合は朝9時。う〜、早い!GWの最終日に一日仕事となりますが、がんばりましょう。朝からステージマネージャーは大張り切り。大声を出して、椅子出しのお手伝いメンバーに指示しています。ステージの用意が整うと、写真撮影のために本番の衣装に身を固めた団員たちは、先を争うように練習を始めます。この練習が果たして本番の演奏にどれくらい効果があるのかはわかりませんが、もうこれは本番前の演奏者の本能ですね。
写真撮影が終了すると、夕方4時まで一時解散となります。今年の定期演奏会も姉妹オケであるクニトオケの演奏会とのダブルヘッダー開催のため、クニトオケに賛助出演する団員以外は、長〜〜い昼休みを過ごすことになります。一時帰宅する団員、いつもはあまりできないおしゃべりで交流を深める団員、過ごし方はまちまちです。筆者はランチの後、散歩がてら市内の探検と偶然発見した喫茶店での優雅なティータイム、そしてクニトオケの演奏鑑賞というコースでリラックスして待ち時間を過ごすことができました。
再集合の時間になり、三々五々、団員たちが戻ってきました。クニトオケの舞台がはね、子どもたちが去っていくのを待ちかねたように、わが団員たち、またまた舞台に張り付いて練習を始めています。‘最後の悪あがき’と言わんばかりに、困難箇所ばかりを選んで必死の形相で練習しています。しばらくするとマエストロがパンパンと手をたたきながら舞台に走ってきます。
「はいはい、皆さん、もうあんまり練習しないでください。本番は疲れるんですから、はい、もう止め。あと5分で練習は終わりです!」
それでも、なかなか練習の音は止みません。ようやく団員たちの諦めがついたところで突然、舞台では伊東先生と西谷マエストロによる『2つのバイオリンのための協奏曲』デュオが始まりました。マエストロは、朝から自分だけ楽器に触れていないのに痺れを切らしたみたいです。とても軽やかでオーソドックスな伊東先生と、アピール力全開の‘クセ強’な西谷先生による対照的なお二人によるミニ演奏会でした。はからずもオーケストラ奏者の弾き方とソリストの弾き方の違いがくっきりと出て、とても興味深く聴かせていただきました。こんな風に気軽に惜しみなく腕前を披露してくださるところが、わが講師たちの魅力的なところですね。
さて、いよいよ開幕のベルが鳴りました。
今回の演奏会のテーマは「音楽の歴史をたどる旅」
演奏曲目は、バロック、古典派、ロマン派、近代(印象派)、現代から、順番に演奏し、曲の合間に講師の先生方を一人ずつ紹介しつつ各時代の音楽について語るというトーク形式で行われます。今回の演奏会報告は、このトークを中心にお話ししたいと思います。
このトークですが、ライブ感を出すためとして、あまり打ち合わせをせずに出たとこ勝負で臨むこととしたMC役のマエストロです。昼の部で行われたクニトオケの演奏会も同様な形式で行われ、筆者もその様子を拝見させていただいていたのですが、少々ライブ感が出過ぎていたようで…
最初に登場した毛利先生、古典派について解説いただくはずでしたが
「古典派についてお話するためには、まずバロックについて語らなければなりません…」
おっと、来ましたよ。バロックについて語りだすと止まらない毛利先生です。
「バロックの音楽は神様に捧げる音楽で、この時代は即興演奏が主体でありました。バロック時代のオルガニストたちは…」
と延々、バロックを語っているうちに時間はどんどん過ぎてゆき、舞台転換もすっかり終わり、MCのマエストロが楽屋の方をきょろきょろ伺いながら
「毛利先生、もう次の曲の準備ができちゃったんですけど…」
と止めにかかっても、「バッハには20人の子どもがいて、そのうち成人したのが何人で…」とまだ説明は続き、まるでコントのような状況になっていきました。筆者は笑いをこらえるのが必死で、古典派がいつ生まれたのか全然頭に入らないまま終わってしまいました。
次のロマン派の紹介は伊東先生の出番でしたが、
「ロマン派はロマンチックな音楽です。」
という一言で終了。マエストロが思いつきで「最近、何かロマンチックな体験をしましたか?」という唐突な質問を投げると、伊東先生、
「散歩していて、空を見たら、ああ、ロマンチックだなと。」
??? これまたコントになってしまいました。
この調子で石オケの部でもトークが進行したら、可笑しくて演奏できなくなってしまうのではないかと心配していたところでしたが、先生たち、さすがです。
二回目の舞台では、しっかりと修正してきました!
毛利先生はバロック音楽の説明をグッと簡略化してくださり、お蔭で、バッハの末子であるクリスチャン・バッハが、父の時代の音楽への反発からもっと大衆受けするシンプルでわかりやすい音楽を提唱して古典派が誕生した、ということがよくわかりました。
伊東先生には「ロマンチック」についての質問はやめて、「本来はカルテットで演奏する曲を大勢で合わせる難しさ」というコンサートマスターにふさわしい質問に替えてきた西谷先生。伊東先生も無難に答えを返し、さらに
「今回は、原曲にはないコントラバスも入ってくれたので、より音に深みが出ました。」
とコントラバスへのリスペクトも付け加えてくださいました。
何と言っても素晴らしいトークだったのが、次の安藤先生でした。ロマン派と印象派の音楽の違いを質問されると
「ロマン派は、心の中の 感情 を表現する音楽なのに対して、印象派は心に感じた 感覚 を表現する音楽です。」
と百点満点の見事な説明をしてくださいました。この答えを聞いて、ドビュッシーの演奏を前に筆者は、“神の啓示”とも言うべきものすごく大きなヒントをいただいた気がしました。ドビュッシーの弦楽四重奏のメロディーから、波の音、風のゆらぎ、茜色の夕焼け空…色々な光景が浮かんできて、ついにカオスを脱却できた気がしたのでした。いやいや、もうちょっと前にその言葉聞ければよかったんだけど…
最後の現代の音楽の紹介で登場した手塚先生は『トリプティーク』について語ってくださいましたが、これもまたとても興味深いお話でした。この曲の初演は日本ではなくニューヨークだったそうです。さらに作曲者の芥川也寸志は、当時まだ国交のなかったソ連にも密入国してこの曲を売り込みに行った、という生々しいお話も披露していただきました。
今回の演奏とトークで繋ぐ「音楽の歴史をたどる旅」企画、大成功だったと思います。
あ、トークの話がちょっと長すぎましたね。肝心の演奏です。
各曲については、練習会報告で散々語ってきましたので、ここでは語りません。
久しぶりに参集した第8シーズン、途中、コロナ蔓延による練習中断などもあり、
本音を言えばもう少し練習を重ねたかったという思いもありますが、特に通し練習が始まった3月以降の追い込みは、とても充実感があったと思います。そして今日の本番も、団員一人ひとりが今できる最善を尽くしたと言えると思います。何と言っても、演奏できる喜びだけはどんな演奏会にも負けないくらい溢れていたと信じます。
いつもなら、終演後はお楽しみの大宴会となるところですが、時節柄、今年は行いません。団員たちは、秋の再会を約束しながら笑顔で手を振って別れていきました。次回は5月7日、場所は今年と同じ、ここ清瀬けやきホールで定期演奏会を行う予定です。来年は、新しいメンバーにも、また諸般の事情でオケを離れている元団員の方々にも加わっていただいて、大きくなって帰ってこれたらいいな、と思います。
最後になりましたが、今回の演奏会開催にあたり、ご指導いただきました西谷先生はじめ講師の先生方、スムーズな団運営にご尽力くださいました事務局の皆様、舞台回しにご尽力いただいたステージマネージャーとお手伝いの皆様、賛助出演いただいた皆様、受付と写真係でご協力くださった皆様、そして楽しい時間を共有してくださった団員の皆様に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。また会いましょう!